日本では公的医療保険制度により手厚い医療が誰でも受けられます。一方、生命保険の世帯加入率は約9割*¹に達する保険大国です。そんな中、病気やけがに備えるための「民間の医療保険」は本当に必要なのか?と悩む人もいるかと思います。ここでは年代別に民間の医療保険の必要性について解説していきます。
*¹(公財)生命保険文化センター 2021年度 生命保険に関する 全国実態調査
病気やけがに備えるために加入する「民間の医療保険」とはどのようなものなのでしょうか。医療保険の種類やその役割をご紹介します。
医療保険には、国の社会保険制度として加入が義務付けられている「公的医療保険」と、保険会社 などが
販売し、任意で加入できる「民間医療保険」の2種類があります。
公的医療保険については、保険証などを提示することで、病気やけがなどで病院で受診する場合にも、原則、医療費の1〜3
割の負担で治療を受けられます(自治体によっては子ども向けの医療費助成制度がある場合があります)。
保険会社などが販売する「民間医療保険」は、公的医療保険制度では賄えない不足分をカバーする目的で利用されており、その加入は任意となります。
入院などにより病院を利用した際の医療費の補填だけでなく、公的医療保険制度が適用されない治療や諸費用の負担に備えられる商品もありますので、経済的な負担を減らし治療の選択肢を広げることもできます。
「公的医療保険があるので⺠間の医療保険は不要ではないか」という情報や記事を⽬にすることがありますが、これはなぜでしょうか。ここでは、民間医療保険が不要と言われる理由をひもといていきます。
※以降は民間の医療保険を「医療保険」と表記しています。
「⽇本では、公的医療保険制度が充実していることから、⺠間の医療保険は不要」という情報や記事を目にすることがあります。
その理由として、公的医療保険の対象となる治療では、病院での自己負担額は原則1~3割で、「高額療養費制度」「出産育児一時金」「出産手当金」「傷病手当金」といった制度も充実していることが推測されます。これにより、公的医療保険があれば、問題ないのではと考える人も多いのではないでしょうか。しかし、実際には、公的医療保険ではカバーできない費用も存在するので、自身の健康状態や年齢、病気やけがのリスクなどを考慮し、民間の医療保険等を検討することが必要となる場合もあります。
私たちが加入している公的医療保険で受けられる、手厚い医療保険制度について詳しくご紹介します。
病気やけがなどにより病院で治療を受ける際、公的医療保険が適用される治療であれば、医療費の原則7~9割が公的医療保険でカバーできます。原則1~3割の自己負担分についても、同一月内の自己負担額が一定限度額を超えた場合に、還付される「高額療養費制度」があります。各家庭における医療費負担の上限がある程度見えているため、公的医療保険だけでも比較的安心と考える人が多いのではないでしょうか。
自己負担額の割合は、未就学児が2割、70歳未満が3割、70歳以上は所得額により2~3割、75歳以上は1~3割の負担となります。また、各地方自治体により、未就学児や小中学生に対する医療費の助成が行われている場合もあります。
医療費の自己負担のイメージ
一般所得者 | 一定以上所得者 | 現役並み所得者 |
---|---|---|
1割負担 | 2割負担 | 3割負担 |
2割負担 | ||
3割負担 | ||
2割負担 |
※就学前の幼児や小中学生までは、各地方自治体により、子どもの医療費の助成が行われている場合もあります。
※厚生労働省「医療費の自己負担について」よりFWD生命にて作成
急な病気やけがなどでは、精神的不安に加え、経済的な不安を感じる人は少なくありません。そんな時に利用できるのが「高額療養費制度」です。
同一月内の支払い額が、自己負担限度額を超えた場合に還付の申請ができるので、突然の高額支払いに慌てずに済みます。
同一月内の自己負担限度額は、年齢・収入等により変わるので、自身の条件を確認しておきましょう。高額療養費制度に関する詳細内容については、厚生労働省のホームページ等でご確認ください。
■100万円の医療費で窓口負担(3割)が30万円かかる場合の自己負担額(イメージ図)
例)40歳の会社員で標準報酬月額が30万円の方の場合
※厚生労働省「医療費の自己負担について」よりFWD生命にて作成
<69歳以下の方> | 月単位の上限額 |
---|---|
被用者保険(健康保険)加入で、標準報酬月額83万円以上 国民健康保険*²加入で、年間所得901万円超 |
252,600 円+(医療費-842,000 円)×1% |
被用者保険(健康保険)加入で、標準報酬月額53万円以上79万円以下 国民健康保険*²加入で、年間所得600万円以上901万円以下 |
167,400 円+(医療費-558,000 円)×1% |
被用者保険(健康保険)加入で、標準報酬月額28万円以上50万円以下 国民健康保険*²加入で、年間所得210万円以上600万円以下 |
80,100 円+(医療費-267,000 円)×1% |
被用者保険(健康保険)加入で、標準報酬月額26万円以下 国民健康保険*²加入で、年間所得210万円以下 |
57,600 円 |
市町村の住民税非課税者 | 35,400 円 |
<70歳以上の方> | 月単位の上限額 |
---|---|
被用者保険(健康保険)加入で、標準報酬月額83万円以上 国民健康保険*²加入で、課税所得 690万円以上 |
252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
被用者保険(健康保険)加入で、標準報酬月額53万円以上79万円以下 国民健康保険*²加入で、課税所得380万円以上 |
167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
被用者保険(健康保険)加入で、標準報酬月額28万円以上50万円以下 国民健康保険*²加入で、課税所得145万円以上 |
80,100円+(医療費-267,000 円)×1% |
被用者保険(健康保険)加入で、標準報酬月額26万円以下 国民健康保険*²加入で、課税所得145万円未満等 |
外来(個人ごと)18,000円*³ 世帯ごとの上限額 57,600円 |
市町村の住民税非課税者 | 外来(個人ごと)8,000円 世帯ごとの上限額 24,600円 |
市町村の住民税非課税者(年金収入80万円以下) | 外来(個人ごと)8,000円 世帯ごとの上限額 15,000円 |
*² 75歳以上の方、 65 歳以上 74 歳以下で一定の障がいがあると認められた方は、 後期高齢者医療制度に移行します (65 歳以上 74 歳以下で一定の障がいがある人の移行は任意となります)。
*³ 1年間のうち一般区分又は住民税非課税区分であった月の外来の自己負担額の合計額について、年 14.4万円が上限となります。
※直近の 12 か月間に、 既に 3 回以上高額療養費の支給を受けている場合(多数回該当の場合)には 、その月の自己負担額の上限が引き下がる場合があります。
治療にかかる費用の中には、普段私たちが加入している公的医療保険が適用されない費用もあります。公的医療保険が適用されない場合、自己資金で支払う、もしくは民間医療保険で補填することになります。
●差額ベッド代
病気やけがなどによる入院の際、本人が個室を希望する場合などには差額ベッド代が必要となります。差額ベッド代は病院によって価格が設定されており、厚生労働省が公表している「第528回 中央社会保険医療協議会 主な選定療養に係る報告状況」によると、差額ベッド代の平均は以下の通りです。患者の負担が大きくなる費用の1つとなります。
差額ベッド代の平均(1日あたりの推計平均徴収額) | |
---|---|
1人室 | 8,315円 |
2人室 | 3,151円 |
3人室 | 2,938円 |
4人室 | 2,639円 |
合計 | 6,613円 |
●食事代の一部負担
入院時の食事療養費の負担額は、原則1食460円です。1日3食で1,380円、入院が長期に及ぶ場合、自己負担の総額が大きくなります。
●先進医療など保険適用外の治療
特定の大学病院などで研究・開発された難病などの新しい治療や手術などは、ある程度実績を積んで確立されると、厚生労働省に「先進医療」として認められます。先進医療に関わる費用は全額自己負担となります。そのため、先進医療への備えがあると治療の選択肢を広げることができます。
先進医療以外にも、厚生労働省が承認していない治療や薬を使用する「自由診療」や、美容整形やレーシック手術などの保険適用外の施術も全額自己負担となります。
●予防接種・健康診断や人間ドック
インフルエンザなどの予防接種や健康診断、人間ドックなどの費用は原則公的医療保険の適用外となり、全額自己負担となります。企業に勤務している場合、その費用を会社が負担する場合もありますが、自営業者などの場合、自治体の補助金などを活用できないときには全額自己負担となります。
公的医療保険や高額療養費制度の利用で、医療費をカバーできた場合でも、治療や入院、療養などで働けない期間の収入が減ってしまう可能性があります。
例えばサラリーマンの場合には有給休暇や傷病手当金で一定カバーすることができますが、もし小さい子どもがいる場合には、家事や育児がままならず、ベビーシッターや家事代行を利用するなど、急な出費が嵩む可能性も考えられます。
このような、医療費以外にかかる費用は自身でまかなう必要があるため、その分の貯蓄があるのか確認しておくと安心です。余剰の蓄えが無い場合には、民間の医療保険などでカバーすることをおすすめします。
医療保険が不要と言われる理由の1つに、医療保険に払う費用を貯蓄しておけば良いのでは?という意見があります。早くから貯蓄を続け、十分な蓄えがある場合は、それでも良いかもしれません。しかし、病気やけがは突然やってきます。貯蓄などの蓄えが十分でないうちに入院といったケースもあるでしょう。
(公財)生命保険文化センターの「令和4年度 生活保障に関する調査」によると、過去5年間に入院した人の直近の入院における、入院日数の平均日数は17.7日、自己負担費用の平均額*⁴は198,000円となります。貯蓄が十分でない状態で、突然200,000円近くの支払いが必要となるのは大変ではないでしょうか。
*⁴費用には治療費・食事代・差額ベッド代に加え、交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)や衣類、日用品などを含む。高額療養費制度を利用した場合は利用後の金額となります。
さらに、入院の自己負担費用以外に備えておきたいのが、自身や家族が入院・療養などで働けなくなった時に減少してしまう収入=「逸失収入」です。(公財)生命保険文化センターの「令和4年度生活保障に関する調査」によると、過去5年間に入院し、逸失収入があった人の逸失収⼊額の平均は302,000円、これにさきほどの自己負担額を合わせると、約500,000円のまとまった金額が必要になります。
以上の調査結果などを参考にし、もし今、家族の誰かが入院した場合に、貯蓄で自己負担額や逸失収入をカバーできるのか今一度確認しておくと安心です。貯蓄額に不安がある場合は、民間の医療保険の加入も検討してみましょう。
もし、入院が長期化してしまった場合、入院給付金には支払限度日数があるので、意味がないのではと思われる方もいるかもしれません。本当に加入の必要はないのでしょうか?
以下表の平均在院日数の推移を見ても分かる通り、令和2年の平均在院日数は16.5日。入院日数は短期化の傾向にあります。
■平均在院日数の推移(一般病床)
出典:厚生労働省「平成17年・20年・23年・26年・29年・令和2年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況」よりFWD生命にて作成
以下は令和2年に厚生労働省が発表した「患者調査」です。
主な病気の平均在院日数をみていきましょう。
平均 在院日数 |
在院日数 | |||
---|---|---|---|---|
35~64歳 | 65歳以上 | 75歳以上 (再掲) |
||
結核 | 59.5 | 38.7 | 66.8 | 67.7 |
胃の悪性新生物(胃がん) | 22.3 | 19.4 | 22.9 | 26.4 |
気管、気管支および肺の悪性新生物(肺がんなど) | 21.1 | 16.1 | 22.3 | 26.6 |
乳房の悪性新生物(乳がん) | 15.4 | 8.6 | 23.8 | 38.5 |
糖尿病 | 30.6 | 15.6 | 40.7 | 51.1 |
統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害 | 570.6 | 334.4 | 1147.7 | 1397.2 |
気分[感情]障害(躁うつ病を含む) | 137.4 | 116.7 | 193.5 | 208.4 |
アルツハイマー病 | 273.0 | 190.1 | 274.6 | 270.8 |
高血圧性疾患 | 47.6 | 10.7 | 53.4 | 55.7 |
心疾患(高血圧性のものを除く) | 24.6 | 12.6 | 27.6 | 33.7 |
脳血管疾患 | 77.4 | 51.8 | 83.6 | 93.2 |
肺炎 | 38.0 | 21.9 | 41.0 | 43.1 |
喘息 | 17.4 | 12.2 | 30.8 | 37.6 |
骨折 | 38.5 | 21.3 | 46.2 | 50.3 |
出典:令和2 年厚生労働省「患者調査」
65歳以上になると平均在院日数は増加傾向にあり、また統合失調症やアルツハイマー病等の精神・神経系の疾患は在院日数が多くなっていることがわかります。これらのことが気になる場合には、入院給付金の支払限度が長いプランを検討してもよいかもしれません。
次に、がん・心疾患・脳血管疾患などの「3大疾病」の保障が気になっている場合についてです。もしも3大疾病で所定の状態となった時、一時金を受け取れたり、それ以降の保険料の支払いが免除されるといった特約が付けられる商品も各保険会社で用意されております。一度確認してみては如何でしょうか。
また医療保険を検討したいが特にがんの保障が気になっている方には、例えばがんの診断確定でまとまった一時金が受け取れる特約を付加することでがんの保障を手厚くできる医療保険もあるようです。
そのほか、退院後の通院、抗がん剤治療といった、入院や治療が長期化しやすい病気に備えられる特約等が用意されている場合もあります。
公的医療保険があるし、長期入院には備えられないといった理由から民間の医療保険が不要と言う方もいるかもしれません。一方で、公的医療保険ではカバーされない費用が存在すること、入院費用以外にも逸失収入が生じること、実は長期入院や3大疾病に備えられる商品や特約も存在することなどを考慮し、自身の気になる病気や備えたい保障を確認しながら、医療保険の必要性を考えていきましょう。
公的医療保険と民間医療保険の役割が見えてきたら、貯蓄や家族構成などを考慮し、医療保険の必要性を考えましょう。
医療保険が不要な人はどんな人でしょうか。
急な病気やけがで手術・入院・長期療養となった場合は、治療に関する費用がかかる上、働けなくなる可能性が高くなります。貯蓄が十分にある、または養っている家族がおらず、療養中の逸失収入を自身の貯蓄や(サラリーマンの場合で)有給休暇や傷病手当金でカバーできると考える場合には、医療保険の加入は不要かもしれません。
医療保険が必要な人はどんな人でしょうか。
医療の発展はめざましく、研究や開発により日々進化しています。公的医療保険ではこういった最新の医療を受けることはできない場合があるため、万が一の際、費用がかかってもよいから治療の選択肢を広げられるようにしておきたいという人は、先進医療等の治療をカバーできる医療保険に加入しておくのもよいでしょう。
医療保険の加入が必要かどうかは、年齢や健康状態、家族構成などによって人それぞれです。ここでは、年代別に医療保険の必要性を解説します。
社会人となり、結婚や出産を経て新しい家族ができるなど、ライフステージが大きく変化する20~30代。マイホームの購入や家族が増えるタイミングです。
社会人経験も浅く、まだ貯蓄額が少ない中での結婚や出産、マイホーム購入には不安がつきものです。病気やけがで家族が不安にならないよう、⽇額給付タイプなど、“⽉々の払い込み額が⽐較的お⼿頃な医療保険”を検討してみましょう。
企業に勤めている場合、昇進などを経て経済的余裕が出てくる人も多い40代。一見すると安定しているように見えますが、実は、子どもの成長と共に教育費の負担が大きくなる年代でもあります。
働き盛りの40代ですが、年齢が進むとともに病気のリスクも高くなっています。病気になってからだと保険に加入できなくなる可能性もあります。ご自身だけでなく、もしもの時の家族の負担軽減のためにも健康なうちに医療保険の検討をしてみてはいかがですか。
子どもが成長し、教育費などにかかる経済的な負担が軽くなる人も多い50代。
子どもが独立したら今度は老後の生活や病気のリスクに備える年代となります。“がんなどの特定疾病に備えられる医療保険”を検討してみてはいかがでしょうか。
勤めた会社を退職し、年金での生活となる人もいる60代以降。収入が減る一方で、病気やけがのリスクが高くなる年代です。
これからの病気やけがに備えて、“保障が一生涯続く終身型の医療保険”などを検討してみてはいかがでしょうか。
最後に、日本の公的医療保険制度は充実しており、民間の医療保険は不要では?という方もいるかもしれません。しかし、公的医療保険だけではカバーできない出費も数多くあります。貯蓄や健康状態、家族のことを考え、それぞれのライフステージに合わせて、医療保険の要不要、必要な場合はご自身にあった医療保険を検討していきましょう。
※保険商品の内容は、一般的と考えられる内容です。各保険会社が取扱う保険商品の内容については、各保険会社へお問い合わせください。
※社会保険制度の内容については、2023年4月1日現在施行されている制度に基づく内容です。今後の制度改正等によって、内容が変更される場合もあります。
記事の制作:FWD生命保険株式会社
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