日本の医療保険には、主に公的医療保険と民間医療保険の2つがあります。それぞれの医療保険について、どのような違いがあるのか具体的にわからない人もいるでしょう。
病気やケガはいつ誰にでも起こり得るものなので、いざというときのために基本的な知識は身につけておきたいものです。
この記事では、公的医療保険と民間医療保険について、それぞれの保障内容や保障対象者などについてわかりやすく解説していきます。
医療保険には、大きく分けて公的医療保険と民間医療保険の2つがあります。
いずれも、病気やケガで医療機関を受診した際の治療費を保障するものですが、それぞれ保障内容や役割が異なります。
公的医療保険と民間医療保険の主な違いは下記の表の通りです。
項目 | 公的医療保険 | 民間医療保険 |
---|---|---|
運営主体 | 国・自治体 | 民間企業(保険会社など) |
加入義務の有無 | すべての国民に加入義務がある | 任意加入 |
加入目的 | 国民生活の安定や福祉向上など | 公的医療保険の上乗せ保障 |
加入審査 | なし | あり |
利用の際の手続き | 不要 | 必要 |
公的医療保険と民間医療保険のそれぞれについて、詳しい内容を解説していきます。
公的医療保険とは、国による社会保険制度のひとつで、病気やケガをした際にかかる医療費の一部を負担してもらえる制度のことです。日本には「国民皆保険制度」があり、原則としてすべての国民がいずれかの医療保険に加入することが義務付けられています。
公的医療保険には、被用者保険(健康保険)、国民健康保険、後期高齢者医療制度の主に3つの制度があります。加入対象者や特徴などについては後ほど詳しく解説します。
公的医療保険の特徴のひとつに、安い医療費で高度な医療を受けられるということがあります。医療費の自己負担額は加入者の年齢や所得などにより、以下のように決められています。
加入者の年齢 | 一般・低所得者 | 一定額以上所得者 | 現役並み所得者 |
---|---|---|---|
75歳以上 | 1割負担 | 2割負担 | 3割負担 |
70歳~74歳 | 2割負担 | ||
6歳~69歳(義務教育就学後) | 3割負担 | ||
義務教育就学前 (6歳に達する日以降の最初の3月31日まで) |
2割負担 |
なお、75歳以上で一定以上の所得がある方(現役並み所得者を除く)は、令和4年10月1日から、医療費の窓口負担割合が2割負担に変更されています。
民間医療保険は、生命保険会社や損害保険会社などが提供している医療保険です。
公的医療保険とは異なり、加入は任意で、個人の希望する商品を自由に選択することが可能です。
民間医療保険では、あらかじめ定められている条件に合致した際に給付金が支給されます。例えば、入院や通院をした際の「入院給付金」や「通院給付金」、手術を受けた際の「手術給付金」、がんなど所定の疾病と診断された際の「診断給付金」などがあります。
民間医療保険の主な役割は、公的医療保険で保障対象外となる部分をカバーすることです。
ただし、保障内容は商品によって異なるため、必要な保障が含まれている商品を選択することが大切です。
公的医療保険には、被用者保険(健康保険)、国民健康保険、後期高齢者医療制度の3つの種類があります。年齢や就業状況によりそれぞれ加入対象者が決められており、保障内容も異なるので順に確認していきましょう。
被用者保険(健康保険)は、会社員や公務員などの被用者やその扶養家族を対象にした健康保険で、大きく次の3つの種類に分かれます。
被用者保険名 | 加入対象者 |
---|---|
組合管掌健康保険 | 大企業の被用者など |
全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ) | 中小企業の従業員など |
共済組合 | 国家公務員・地方公務員など |
被用者保険(健康保険)の保険料は、標準報酬月額(※)などをもとに算出され、従業員と企業が折半して支払います(労使折半)。
※標準報酬月額:被保険者の毎月の給料などの報酬月額を区切りのよい幅で区分したもの。保険料の金額を決める際などに活用される。
国民健康保険は、市区町村が運営する医療保険制度で、主に自営業や個人事業主、農業、無職の人など企業に所属していない人が加入する制度です。
保険料の算定方法は市区町村の条例で決められており、収入や世帯人数などによって世帯ごとに計算されます。家族の一人ひとりが被保険者となる点で被用者保険(健康保険)と異なります。
後期高齢者医療制度は、75歳以上もしくは65歳以上74歳以下の方で、一定の障害を持つ高齢者が加入する公的医療保険制度です。
以前は、医療費の自己負担割合は1割負担か3割負担のいずれかでした。しかし、自己負担割合の見直しが行われ、すでに3割負担の人を除き、一定以上の所得がある場合、自己負担割合が2割に変更されています(令和4年10月1日以降)。
その結果、一般所得者が1割、一定の所得がある人が2割、現役並み所得者が3割負担という区分となっています。
公的医療保険は、医療機関窓口で支払う費用の一部を負担してくれるほかにも、所定の条件に該当した人にさまざまな給付金を支給しています。
手続きをせずに自動で給付を受けられるものもありますが、中には自分で申請手続きをしなければ給付を受けられないものもあります。受給漏れのないように、給付金の種類について確認しておきましょう。
療養の給付とは、医療機関を受診した際にかかる費用の一部を負担してくれる制度です。年齢や所得によって自己負担割合が1割〜3割に決められています。
詳しい内容は、「医療保険の種類をわかりやすく解説」の章の「公的医療保険の保障内容」で解説してありますので、参考にしてください。
入院時食事療養費は、入院中に医療機関から提供される食事の費用のうち、一定額を超えた分の給付が受けられるもので、被保険者の負担額は原則として一食につき490円です。
なお、住民税非課税世帯など低所得世帯では自己負担額が軽減されており、一食につき110円、180円、230円のいずれかの金額となっています。また、難病患者などの場合は一食につき280円に軽減されています。
入院時生活療養費は、65歳以上の入院患者の生活療養にかかる費用を対象とした給付制度です。具体的には、食事療養や温度・照明・給水に関する適切な療養環境の形成のための費用などが対象です。
居住費として1日370円を超える金額と、食費として1食490円(条件により450円)を超える金額が支給されます。なお、住民税非課税世帯や指定難病患者などはさらに軽減されます。
高額療養費とは、1ヵ月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が後日払い戻される制度です。自己負担限度額は、年齢や所得などにより異なります。
当月の医療費の自己負担額が高額になることがあらかじめわかっている場合は、「限度額適用認定証」の提出が便利です。保険証と併せて医療機関に提示すると、1ヵ月の窓口での支払いが自己負担限度額までになります。
出産育児一時金とは、妊娠4ヵ月(85日)以上の被保険者やその被扶養者が出産した際に、申請することで一時金が支給される制度です。妊娠4ヶ月(85 日)以上の早産、死産、流産、人工妊娠中絶(経済的理由によるものも含む)も支給対象として含まれます。
支給金額は原則として1児につき50万円です。妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は、支給額が48.8万円となり、多胎児を出産したときは、胎児数分だけ支給されます。
傷病手当金は、病気やケガで休業中の被保険者とその家族の生活を保障するための制度です。病気やけがが原因で会社を休み、勤務先から十分な報酬が受け取れない場合に支給されます。
手当金が支給されるのは、病気やケガで休んだ日が3日間連続した場合の4日目以降に休んだ日が対象です。支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月までとなります。
1日当たりの支給金額は以下の計算式で求めます。
[支給開始日(※)の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額]÷30日×(2/3)
※支給開始日とは、一番最初に傷病手当金が支給された日を指します。
なお、傷病手当金は、被用者保険(健康保険)では給付を受けられますが、国民健康保険では任意給付となっています。
出産手当金とは、被保険者本人が出産のため会社を休み、その間に給与の支払いがなかった場合に支給される手当金です。
支給対象となるのは、出産日(実際の出産が予定日を過ぎた場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までのうち、会社を休んだ期間です。なお、出産が予定日を過ぎた場合、遅れた期間についても支給対象となります。
出産手当金の1日当たりの支給金額は以下の計算式で求めます。
[支給開始日以前の継続した12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額]÷30日×(2/3)
なお、出産手当金は、被用者保険(健康保険)では給付を受けられますが、国民健康保険では任意給付となっています。
埋葬料とは、被保険者が業務外の事由により亡くなった場合、当該被保険者によって生計を維持されて、埋葬を執り行う人に5万円が支給される制度です。
埋葬料を受け取る人がいない場合は、実際に埋葬を執り行った人に、5万円を限度として実際に埋葬にかかった費用が支給されます。
なお、被扶養者が亡くなった場合は、被保険者に5万円が「家族埋葬料」として支給されます。
葬祭費とは、国民健康保険の加入者が死亡した場合に、葬祭を行った人に対して自治体ごとに定めた額が支給される制度です。
民間医療保険には、主に以下のような種類があります。
医療保険の種類 | 保障内容 |
---|---|
一般的な医療保険 | 入院や通院をした場合、手術を受けた場合などに給付金が受け取れる |
女性向け医療保険(女性保険) | 一般医療保険の保障内容に加え、女性特有の疾病で入院・手術した場合に手厚い保障を受けられる |
子ども向け医療保険 | 一般医療保険と同様に、入院・通院・手術などの保険金が受け取れる |
がん保険 | がんと診断され入院や通院し、手術や治療を受けた場合などに給付金が受け取れる |
持病がある人向けの医療保険 | 告知事項を3つ程度に限定し保険の引受基準を緩和した「引受基準緩和型医療保険」や告知なしで申し込める「無選択型医療保険」などがある |
保険会社により商品名や保障内容が異なるため、必要な保障をカバーしている商品を選ぶことが大切です。
医療保険は、保障期間によって「定期医療保険」と「終身医療保険」に分かれます。定期タイプは一定期間のみの医療保障が得られるもので、終身タイプは一生涯の医療保障が得られるものです。
定期医療保険は、一定期間のみ加入するタイプで加入期間中のみ保障を受けられます。保険期間を決める方法には、「年満期」と「歳満期」の2つがあります。
保険期間 | 内容 |
---|---|
年満期(更新型) | 「10年間」や「20年間」など年数で保険期間を設定する。保障期間満了時はほとんどの商品で更新が可能。ただし保険料は更新時の年齢や保険料率で再計算される。 |
歳満期(全期型) | 「60歳まで」や「90歳まで」など被保険者の年齢で保険期間を設定する。ほとんどの商品で更新はなく、保険期間満了時に保障は終了する。 |
終身医療保険は保険期間に定めがないタイプで、一生涯の医療保障を得ることが可能です。契約内容を変更しない限り、契約時の保障が同じ保険料のまま一生涯継続されます。
高齢になるほどケガや病気になるリスクが高くなるため、終身型医療保険に加入すると高齢期の医療費負担を軽減することが可能になります。
民間医療保険は、満期保険金や解約返戻金などが受け取れるかどうかという「貯蓄性の有無」の観点から、「掛け捨て型」と「貯蓄型」に分けられます。
掛け捨て型の医療保険では、満期時の満期保険金や中途解約した際の解約返戻金は発生しません。ただし、商品によって異なるため、詳細は商品を提供している生命保険会社にご確認ください。
貯蓄性がない分、同一保障内容の貯蓄型よりも保険料が安くなることが多いです。解約返戻金を気にする必要がないので、定期的に保障の見直しがしやすいという特徴があります。
貯蓄型の医療保険は、満期保険金や解約返戻金などを受け取ることができます。
また、一定の期間医療保険の請求手続きをしなかった場合に「健康祝い金」が受け取れる商品もあります。ただし全ての商品に共通するものではなく、商品の内容によって異なるので注意が必要です。
保障以外にも貯蓄分の保険料が含まれるため、同一保障内容の掛け捨て型よりも保険料が高くなる傾向があります。
民間医療保険では、入院や通院した場合や手術を受けた場合、先進治療を受けた場合など、所定の条件を満たした場合に給付金を受け取ることができます。
民間医療保険から受け取れる主な給付金について説明します。
入院給付金とは、被保険者が病気やケガで入院した場合に受け取れる給付金のことです。
給付金の決め方は主に2つあり、契約時に入院日額を決め入院日数に応じて給付金が支払われる商品と、入院した場合に一時金として受け取れる商品があります。
なお、医療保険では、1回の入院に対して給付金が支払われる限度日数や、「通算〇日まで」といったような支払限度日数が設定されていることがほとんどです。
手術給付金とは、被保険者が病気やケガが原因で手術を受けたときに受け取れる給付金のことで、給付金の対象となる手術は医療保険の商品によって異なります。
給付金の支払回数も保険会社や商品によって異なり、施術開始日から一定日数につき1回などの制限がある商品や、保険期間内であれば何度でも保障される商品などさまざまです。
医療保険によっては、入院を伴わない外来手術でも給付金の支給対象となるものや、入院を伴うか否かで給付条件を分けている商品もあります。
通院給付金とは、一般的に入院給付金が支払われる入院の後に通院した場合に受け取れる給付金です。
多くの医療保険では、通院給付金が支払われるのは入院を伴うことが前提となっているため、風邪などで通院したのみでは給付されないことがほとんどです。なお、入院後の通院のみが対象になる商品のほか、入院前の通院も対象になる商品があります。
先進医療特約とは、医療保険やがん保険などにオプションで付加できる保障です。病気やケガで、厚生労働大臣が認める先進医療による療養を受けたときに、当該先進医療の技術料相当額の給付金が支給されます。
ただし、通算500万〜2,000万円が一般的に限度であることが多いことや、療養を受けた時点でその治療が先進医療に該当している必要があるなどの注意点があります。
日本では国民皆保険制度により、すべての国民が公的医療保険に加入する義務があります。これにより、医療機関を受診した際の費用の自己負担を軽減できたり、所定の状態に該当したときに給付金を受け取ったりすることができます。
一方、民間医療保険は公的医療保険ではカバーできない部分を保障するもので、公的医療保険に保障を上乗せすることを目的として加入することが多いです。
公的医療保険と民間医療保険の特徴や具体的な保障内容を理解し、2つを上手に活用することで自分や家族の健康を守っていきましょう。
記事の監修
※保険商品の内容は、一般的と考えられる内容です。各保険会社が取扱う保険商品の内容については、各保険会社へお問い合わせください。
※社会保険制度の内容については、2024年5月1日現在施行されている制度に基づく内容です。今後の制度改正等によって、内容が変更される場合もあります。
記事の制作:FWD生命保険株式会社
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