がん保険が必要かどうかは、その方やその方の家族が置かれている状況によって異なります。働き方や子どもの年齢、現在の貯蓄など、自分の状況に合った判断をすることが大切です。
この記事では、がん保険の加入を検討する際に必要な情報として、がん保険に加入する目的や主な保障内容、公的医療保険制度でどの程度カバーできるのかを解説します。また、がん保険の加入を考える際のポイントや、がん保険がいらない方の特徴もご紹介します。
がん保険は、その名の通り、がんに特化した医療保険です。がん治療のために必要な費用に備えるために加入します。がん保険の一般的な保障内容は次の通りです。
保障 | 内容 |
---|---|
がん診断一時金 (診断給付金) |
一般的にがんと診断されたときに受け取れる 保険商品によって支払い回数、金額、条件などに違いがある |
がん入院給付金 | がん治療のために入院したときに、入院日数に応じた金額を受け取れる (例)日額〇万円×入院日数で計算した金額 |
がん手術給付金 | がん治療のために所定の手術を受けたときに、あらかじめ定められた金額を受け取れる (例)「手術1回につき〇〇万円」 |
その他、特約を付加することで、がん治療の通院に対応する通院給付金や、放射線(抗がん剤)治療を受けたときの給付金、先進医療や女性特有のがんへの給付金などを受け取れる保険商品もあります。
通常の医療保険でも、がんに備えることはできますが、医療保険の入院給付金は一般的に支払い限度日数が設定されています。がんの場合、転移や再発で再入院することもあるため、治療の途中で、入院給付金が支払い限度日数に達してしまう可能性があります。
一方、がん保険はがんの治療内容に合わせた商品設計となっており、一般的に入院給付金の支払い日数が無制限です。
がん保険が必要かどうかは、人によって異なるため、以下のような要素を考慮した上で加入を検討しましょう。
ここでは、そもそもがんになる確率やがんになった際にかかる治療費について、公的データを使って詳しく解説します。さらに公的医療保険で保障される内容について、会社員と自営業者などの違いについて見てみましょう。
国立がん研究センター「最新がん統計」より、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性65.5%、女性51.2%(2019年)で、男女ともに約2人に1人となっています。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)累積罹患リスク(2019年データに基づく)よりFWD生命にて作成
2019年に新たに診断されたがんの罹患数は999,075例で、年間で約100万人が罹患していることとなります。
以下の表は男性で新たにがんと診断された方の、部位別罹患数の1位から3位をまとめたものです。
項目 | 前立腺 | 大腸 | 胃 |
---|---|---|---|
男性 | 94,748(例) | 87,872(例) | 85,325(例) |
対して、以下の表は女性で新たにがんと診断された方の、部位別罹患数をまとめたものです。
項目 | 乳房 | 大腸 | 結腸 |
---|---|---|---|
女性 | 97,142(例) | 67,753(例) | 48,463(例) |
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
男性の1位は前立腺(94,748例)、女性の1位は乳房(97,142例)で、最も罹患数の多い部位は性別により異なっています。
(公財)生命保険文化センターの「2022(令和4)年度生活保障に関する調査」より、がん保険や医療保険のがん特約など、がんへの備えに関連する保険商品に加入している方の割合を紹介します。
まず、がん保険・がん特約に加入している方の割合は全体で35.2%です。加入率は、男性が35.3%、女性が35.1%となっています。
特定疾病保障保険・特定疾病保障特約に加入している方の割合は28.0%です。「特定疾病保障」とは主に三大疾病といわれる「がん・急性心筋梗塞・脳卒中」により所定の状態になった場合に備えるためのものです。性別ごとの加入率を確認すると男性が28.2%、女性が27.8%で、3割近くの方が加入しています。
出典:(公財)生命保険文化センター「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」
厚生労働省「医療給付実態調査(令和3年度)」によると、がんによる入院費用の平均(公的医療保険適用前)は、約60万円から約170万円、外来費用の平均は約3万円から11万円です。がんの種類によって大きな違いがあることがわかります。
なお、下の表に書かれているのは公的医療保険適用前の金額のため、実際に負担する医療費(自己負担額)はこの1割から3割です。同一月内の自己負担額が限度額を超えた場合には、高額療養費制度を利用できます。
また、70歳以上で条件を満たす方には、外来のみ年間14万4,000円(個人)の上限額も設けられています。
項目 | 入院費用平均 | 外来費用平均 | ||
---|---|---|---|---|
総額 | 自己負担額 (3割) |
総額 | 自己負担額 (3割) |
|
胃がん | 667,620 | 200,286 | 43,771 | 13,131 |
結腸がん | 673,787 | 202,136 | 45,432 | 13,630 |
直腸がん | 784,293 | 235,288 | 61,727 | 18,518 |
肝がん | 657,694 | 197,308 | 100,850 | 30,255 |
肺がん・気管がん | 730,616 | 219,185 | 111,019 | 33,306 |
乳がん | 602,845 | 180,854 | 58,864 | 17,659 |
子宮がん | 646,188 | 193,856 | 33,335 | 10,000 |
悪性リンパ腫 | 1,072,335 | 321,701 | 76,341 | 22,902 |
白血病 | 1,765,683 | 529,705 | 96,301 | 28,890 |
その他の悪性新生物 | 676,464 | 202,939 | 69,895 | 20,968 |
出典:e-Stat 統計で見る日本「医療給付実態調査 報告書 令和3年度」第3表に基づき、FWD生命保険で作成
この他には、入院中に必要な日用品の購入や通院やお見舞いのための交通費、遠方の病院で治療を受ける場合には宿泊費などがかかる可能性もあります。
日本の医療保険は「国民皆保険制度」となっています。国民全員が、何らかの公的医療保険に加入し、医療費の一部(1割から3割)を負担することで、高度な医療の提供を受ける仕組みです。
ただし、医療費のうち、先進医療の費用や特別の病室への入院など、公的医療保険の保障の対象とならない費用もあるので、注意が必要です。また働けなくなった場合の公的保障もあります。
同一月内の医療費が高額となった場合や、所定の条件を満たす方の医療費が高額となった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻される「高額療養費制度」があります。医療費の自己負担限度額は、年齢および所得に応じて計算式などにより算出されます。
例えば、70歳未満で標準報酬月額(※)が35万円の方が、入院費用と外来費用の総額が、ひと月に70万円だった場合、高額療養費制度を適用すると、自己負担額は84,430円となります。
<計算式>自己負担限度額
80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
=80,100円+(700,000-267,000円)×1%=84,430円
※標準報酬月額:社会保険制度において被保険者が受け取っている給与などの報酬の月額を区切りの良い幅で区分した額のことで、保険料や保険給付の額の計算に使用される。
なお、事前に保険者から「限度額適用認定証」の交付を受けることで、窓口負担を自己負担限度額までにすることができます。
入院などにより会社を休んだときには、健康保険組合などから傷病手当金が支給されます。連続する3日間の休業の後、4日目以降の休業した日に対し、最長で通算1年6ヶ月まで支給され、支給額はおおむね給与の3分の2です。
支給対象となる休業期間中に、原則勤務先から給与の支払いがないことが条件です。なお、傷病手当金は原則として自営業者などが加入する国民健康保険にはありません。
障害年金は病気やけがによって生活や仕事などが制限されるような状態になった場合に、条件を満たすと受け取ることができます。
障害の原因となった病気やけがの初診日(はじめて医師の診療を受けた日)に、国民年金に加入していた場合は障害基礎年金、厚生年金に加入していた場合は障害基礎年金に上乗せして、障害厚生年金の受給対象となります。保険料の支払状況や加入期間にもよりますが、一般的には年金も自営業者の方は会社員の方と比べ、少なくなります。
がん保険でがんに備えておくことは、治療を継続していく上で、金銭的な面と精神的な面の両面でメリットがあります。
ここでは、がん保険に加入することで得られる下記の主なメリットを紹介します。
一般に差額ベッド代と呼ばれる、少人数部屋などの特別な病室を使用する費用は、公的医療保険の対象外です。治療に専念するためにプライバシーを確保したい方は、費用がかさみます。
入院中の食事費用は年齢や収入に応じて自己負担があり、原則1食あたり490円です。高額療養費制度を利用したとしても、治療が数ヶ月にわたって長引けば、自己負担額も増えていきます。
高額療養費制度の自己負担限度額は所得に応じて算出されるため、高所得の方ほど大きな負担になります。そういった場合もがん保険に加入することで、公的医療保険の自己負担額や、公的医療保険の対象外となる費用をカバーすることができます。
がんと診断されたら、まとまったお金を一時金として受け取ることができる保険商品もあります。
一時金の用途は限定されていないので、入院の準備に必要な支出や生活費の補填、治療費そのものなど、幅広い用途に使うことが可能です。
例えば自営業者の方が、働けないために無収入となった場合でも、一時金を住宅ローンなどの支払いに充てることもできます。
本格的な治療の前に、まとまったお金を受け取ることで、金銭的な不安の軽減につながり、余裕をもって自分に合った治療を選択することにつながります。
厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」によると、がんによる入院日数は18.2日となっています。また入院患者数約12.7万人に対し、外来患者数は約24.7万人です。
出典:厚生労働省「厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」
がんの治療は入院や手術に加えて、通院による投薬治療や検査を組み合わせることが増えています。そのため通院治療への備えが大切です。がん保険の中には、通院給付金が受け取れる商品もあります。
がん保険は全ての方に必ず必要なものではなく、下記のような特徴がある方には必要ない可能性があります。
がんの治療は、入院・手術後も再発や転移防止のために投薬や検査が数年単位で続くことがあります。また、がんに罹患する前の体力に回復するまでの間は、収入減少も考えられますが、その際の費用を貯蓄でカバーできる方には、がん保険の必要性は低い可能性があります。
夫婦ともフルタイムで働いており、長期の治療でも、もう一方の収入で生活できる方も同様に必要性が低くなります。
また、健康保険組合によっては、独自の付加給付制度などがあるため、ご自身が加入する健康保険の制度を調べてみましょう。
がん以外の病気やけがにも備えたい場合には、通常の医療保険への加入を検討しましょう。
通常の医療保険はがんだけでなく、他の病気やけがによる入院や手術に対応することができます。
がん保険は一般的に待機期間90日など、免責期間が設けられていますが、医療保険は待機期間がない商品が多いのが特徴です。ただし、入院給付金が1入院あたり「60日・120日」など支払い日数に限度があることが多く、また通院が対象ではないものが多いなど、広く浅い備えといえます。
通常の医療保険でがんへの備えを手厚くしたい場合には、「がん診断給付金特約」などを付加することも検討するとよいでしょう。
がん保険が必要かどうか、加入を検討する際の最大のポイントは、がんにかかったときに貯蓄で対応できるかどうかです。
公的医療保険の対象外である先進医療や個室を利用したいのであれば、大きな資金が必要です。また子育て中の家族の場合、教育費がピークのときに、教育費と医療費の両方を負担できるか検討しましょう。
住宅ローンなど毎月の返済を抱えている方は、がんの治療のため十分に働けない期間でも、返済と治療費の負担ができるだけの預貯金があるか、確認が必要です。ご自身や家族の状況をいま一度確認して判断しましょう。
記事の監修
※保険商品の内容は、一般的と考えられる内容です。各生命保険会社が取扱う保険商品の内容については、各生命保険会社へお問い合わせください。
※社会保険制度の内容については、2024年4月1日現在施行されている制度に基づく内容です。今後の制度改正等によって、内容が変更される場合もあります。
記事の制作元:FWD生命保険株式会社
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